2020年1月26日日曜日

意味調べるヘビの鱗

新規更新January 26, 2020 at 12:37PM
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ヘビの鱗


240D:2:A01B:BE00:F88B:33BE:FDF:3EA9: 英語版:en:Snake scales(03:36, 3 December 2019‎ UTC)の翻訳に基づく新規作成。注釈は独自。


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[[Image:Ahaetulla head.jpg|thumb|300px|right|[[ナミヘビ科#分類|ムチヘビ]]頭部の鱗の複雑な形状。[[ハナナガムチヘビ]]。]]
'''ヘビの鱗'''(へびのうろこ 英:Snake scale)では、 [[ヘビ]]という[[爬虫類]]が持つ[[鱗]]について説明する。

他の爬虫類と同様、ヘビには鱗で覆われた皮膚がある<ref name = "Boulenger_1">Boulenger, George A. 1890 The Fauna of British India. p. 1</ref>。蛇は全身が様々な形状や大きさの鱗甲で覆われており、その集合体は[[蛇革]]として知られている。鱗はヘビの身体を防護し、移動の補助を行い、水分を内部に留めることができ、凹凸など表面特性を変えることで[[カモフラージュ]]に役立てたり、時には獲物捕獲にも役立つ([[ヤスリヘビ]]など)。単純ないし複雑な配色パターン(カモフラージュや[[擬態#分類|攻撃擬態]]に有用)は下にある皮膚の特性だが、鱗つき皮膚の折り畳める性質は鱗の間に明るい皮膚を隠しておくことができ、いざという時には捕食者を驚かせる目的でそれを披露したりもする。

縁取りの「まつげ」みたいな眼球保護カバーのように<ref name=MBT>「[https://woman.mynavi.jp/article/140405-30/ 意外と知らない知識-ヘビにまぶたはない]」マイナビウーマン、2014年4月5日。</ref><ref name="INSnakes">[https://ift.tt/36sy9ie The Snakes of Indiana] Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2) at [https://ift.tt/2TXHFra The Centre for Reptile and Amphibian Conservation and Management, Indiana]. Retrieved 14 August 2006.</ref>、鱗には他の機能を果たすべく長い時を経て変容したものがあり、最も特徴的な変容は北米にいる[[ガラガラヘビ]]の尾の「[[#ラトル|ラトル]]」である。

ヘビは定期的に鱗つきの皮膚を[[脱皮]]して新しいものを獲得する。これが古くて摩耗した皮膚の交換と[[寄生虫]]の排除を可能にし、ヘビを成長させていくと考えられる。鱗の配列はヘビの種を識別するのに使われる。

ヘビは文化や宗教の一部となっている。鮮明な鱗の模様は初期芸術に影響を与えたと考えられている。財布、衣装、その他小物の製造に蛇革を使うのはヘビの大量殺害につながり、人工的な蛇革使用の提唱が起こっている。ヘビの鱗は、小説、芸術、映画のモチーフとしても見られる。

==鱗の機能==
ヘビの移動におけるエネルギー損失の主な原因は摩擦であり、ヘビの鱗は主に移動する際の摩擦低減の役目を果たしている。

[[File:Rainbow boa peruvian.jpg|thumb|[[ニジボア]]は虹色変色を引き起こす鱗の色彩が名称の由来である。]]
腹側にある(大型で長方形の)鱗は特に摩擦が少なく、樹上性の一部種では[[側稜]]を使って枝をつかむことが可能である。ヘビの皮と鱗は水分を動物体内に保持する手助けもしている<ref name="Kentucky2">Barnes, Thomas G. [https://ift.tt/2uubMMb Snakes: Information for Kentucky Homeowners]. University of Kentucky.</ref>。ヘビは空気と地面の両方から振動を拾い、内部共振の複雑なシステム(恐らく鱗が含まれる)を使って両者を区別することができる<ref></ref>。

==進化==
爬虫類は、水生様式を残しつつ陸生となった両生類という先祖から進化した。水分の損失を防ぐため、爬虫類の皮は両生類の皮膚の柔らかさと湿潤さを失うかわりに脂質の多層を有する分厚い[[角質]]を発達させ、それは不浸透性の防護壁として機能すると共に紫外線からの保護も果たした<ref name="ChangEtAl2010">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。歳月を経て、爬虫類の皮膚細胞は非常に角質化され、<!-- ツノのように-->頑強に乾燥していった。あらゆる爬虫類の鱗の真皮と表皮面は、ヘビが全身を脱皮する際に見られるように、一続きのシート状になっている<ref name="EBIntegument"></ref>。

==鱗の形態==
[[Image:AB Keeled Scales.jpg|thumb|200px|left|「[[キスジヒバァ]]」の鱗にある筋状突起(キールとも)。]]

ヘビの鱗は、ヘビの下層にある皮膚ないし[[表皮]]の分化によって形成される<ref></ref>。鱗にはそれぞれ外表面と内表面がある。内表面からの皮膚にはヒンジ状の連結部が癒着しており、この鱗の下に現れる次の鱗の基部と重なる何もない空間を形成している<ref name = "Greene_pg22">Greene, Harry W. (2004) ''Snakes - The Evolution of Mystery in Nature''. University of California Press, pp. 22-23 .</ref>。ヘビは鱗が固定数で孵化する。ヘビは加齢しても鱗の数が増えることはなく、歳月経過で数が減ることもない。ただし、鱗はより大きなサイズへと成長していき、脱皮ごとに形状が変わる場合もある<ref name="RSSlimy">[https://ift.tt/38G6SKy Are snakes slimy?] at [https://ift.tt/38Gxf3g Singapore Zoological Garden's Docent]. Retrieved 14 August 2006.</ref>。

ヘビには口の周囲と胴体側面に小さな鱗があり、それでヘビは自分自身よりも遥かに大きな獲物を飲み込むことが可能なほど拡張できるようになっている。ヘビの鱗は、毛髪や指の爪と同じ材質の、[[ケラチン]]で作られている<ref name="RSSlimy"/>。それらは触るとひんやりしていて乾燥している<ref name="SDNHM-HerpFAQ">[https://ift.tt/38COjac Herpetology FAQ] at [http://www.sdnhm.org/ San Diego Museum of Natural History]. Retrieved 14 August 2006.</ref>。

===表面と形状===
ヘビの鱗は形や大きさが様々である。ヘビの鱗はザラザラの場合もあるが、滑らかな表面だったり鱗の上に縦方向の筋状突起(リッジやキールと呼ばれる)があったりもする(左上の写真参照)。多くの場合、ヘビの鱗には肉眼または顕微鏡で視認可能な鱗孔、結節、その他の微細構造がある。ヘビの鱗は縁取り形状に変容する場合があり、[[クサリヘビ科#クサリヘビ亜科_Viperinae|ブッシュバイパー属]]の[https://www.naturepl.com/stock-photo-atheris-ceratophora-nature-image00510541.html Atheris ceratophora]<!--ツノクサリヘビの仲間と思われるが和名確認できず-->の例や、北米にいるガラガラヘビの尾のラトルなどの例がある<ref name="Greene_pg22"/>。

[[ボア科#分類|ボア属]]や[[ニシキヘビ属]]といったある種の原始的なヘビ、そして[[クサリヘビ属]]のようにある種の進化したヘビには、頭部に不規則配列された小さな鱗がある。他のもっと進化したヘビの頭部には、英語圏で「シールド」や「プレート」と呼ばれる特別の大きな対称形の鱗がある<ref name="Greene_pg22"/>。

[[Image:Leptotyphlops humilis - head.jpg|thumb|200px|right|[[メクラヘビ|ホソメクラヘビ]]やその他[[メクラヘビ]]種の円鱗は蛍光性で、低周波紫外線(ブラックライト)の下に置かれると鱗が輝く。]]
ヘビの鱗には様々な形状がある。[[メクラヘビ]]科だと鱗は円形になる事があり<ref name="Boulenger_234">Boulenger, George A. ''The Fauna of British India''... page 234</ref>、[[ハナナガムチヘビ]]の場合は長くて先端が尖った先細り形<ref name="Smith3_6">Smith, Vol III, p. 6</ref>、[[シロクチアオハブ]]種の場合は幅広な葉形<ref name="Smith3_6"/>、また例えば[[ナンダ]]のようなネズミヘビ([[ナミヘビ科]])では鱗が幅広で長い<ref name="Smith3_6"/>。時には[[キスジヒバァ]]の例のように、大なり小なりの筋状突起(キール)が鱗に見られる場合もある<ref name="Smith3_6"/>。[[ユウダ属]]の一部の種では、鱗の先端に2つの歯状突起(bidentate)があったりもする<ref name="Smith3_6"/>。[[トゲウミヘビ]]等の一部のヘビは並列した棘状の鱗を持っている場合があり<ref name="Greene_pg22"/>、一方で[[ミツウロコヘビ]]ことドラゴンスネークの場合のように大きくて重なり合わない突起(knob)が付いている鱗もある<ref name="Greene_pg22"/>。

ヘビの鱗の分化に関する別の例は、ヘビの眼球を覆うブリルと呼ばれる透明な鱗である。このブリルはしばしば癒合まぶた(fused eyelid)として言及される。脱皮の際には古い皮の一部として脱落する<ref name="INSnakes"/>。

===ラトル===
[[Image:Crotale diamantin 40.JPG|thumb|200px|right|変容した尾の鱗が[[ダイヤガラガラヘビ|ニシダイヤ(又はセイブヒシモン)ガラガラヘビ]]の音が鳴るラトルを形成する]]
ヘビの鱗の最も特徴的な変容は、[[ガラガラヘビ属]]や[[ヒメガラガラヘビ属]]などのガラガラヘビにある「ラトル(rattle)」である。ラトルは、脱皮殻がゆるく絡んだ連動房の連なりで構成されており、振った時に互いに振動してガラガラヘビの警戒信号を生じさせる。底部だけが尾の先端にがっちりと癒着している<ref name = "RepSnakeFacts">[https://ift.tt/2RNsnlW Reptiles - Snake facts]. Columbus Zoo & Aquarium. Retrieved on 2013-01-21.</ref>。

出生時、孵化したてのガラガラヘビには小さなボタン形状の「始原ラトル」だけがあり、それは尾の先端にがっちりと付着している<ref name = "RepSnakeFacts"/>。最初の体節は、幼体が初めて脱皮した時に追加される<ref name="Newton">[https://ift.tt/2TXpOk7 Young Snake Rattles! Ask a scientist! (Zoology archive). Newton BBS, Argonne National Laboratory]. Newton.dep.anl.gov. Retrieved on 2013-01-21.</ref>。脱皮のたびに新たな体節が追加され、ラトルが形成されていく。ラトルはヘビが加齢するにつれて成長するが、体節もちぎれやすいため、ラトルの長さはヘビの信頼できる年齢指標とはならない<ref name="desertusa 98">Rhoades, Dusty. [https://ift.tt/2TXB5AE Spring rattles in!] Desert USA website.</ref>。

===色===
鱗は概ね透明な硬いベータケラチンで構成されている。鱗の色は皮膚内側層の色素に起因するもので、鱗の素材自体によるものではない。青と緑を除いて鱗は全ての色がこの仕組みによる色である。青は鱗の[[微細構造]]によって引き起こされる。そうした鱗の表面は光を回折して鱗自体で青の色相を生み出すが、皮膚内側に由来する黄色と組み合わさって、美しい緑色([[玉虫色]])ができる。

一部のヘビは鱗の色相をゆっくり変化させる能力を持っている。これは典型的には季節変化と共にヘビが明るくなったり暗くなったりする場合に見られるものである。時には、この変化が昼と夜の間で起こる場合もある<ref name="RSSlimy"/>。

===脱皮===
[[File:Natternhemd.jpg|thumb|250px|left|長さ1m超に及ぶ[[ヨーロッパヤマカガシ]]の抜け殻([[脱皮|脱皮殻]])]]

鱗を含む外皮が剥落することを脱皮という<!--ecdysis, moulting , sloughingいずれも訳語は「脱皮」-->。ヘビの場合、外皮層全体が1つの層になる<ref name = "Smith1_30">Smith, Vol I, p. 30</ref>。ヘビの鱗は個別ではなく外皮の一部であるため別々に剥落することはないが、脱皮のたびに皮膚と完全につながった外層として、靴下が裏返されるように放棄される<ref name="RSSlimy"/>。

脱皮は多くの役目を果たしている。第一に古くて摩耗した皮を交換し、第二にダニ類<!--mites and ticks-->などの寄生虫を除去しやすくしている。脱皮による皮の再生は、昆虫など一部の動物では成長を促すものと考えられているが、ヘビの場合ではこの見解が論議中となっている<ref name="RSSlimy"/><ref name="ZooPax3">[https://ift.tt/2RPnWab ZooPax Scales Part 3]. Whozoo.org. Retrieved on 2013-01-21.</ref>。

脱皮はヘビの生涯にわたって定期的に繰り返される。脱皮を前に、ヘビは食べるのをやめて隠れたり安全な場所に移動する。脱皮の直前に、皮膚はくすんで乾いた外観になり、眼球は曇ったり青色になる。古い外皮の内側面は液状化する。この液状化が古い外皮を新しい内皮から分離させる。数日後、眼球は澄みわたりヘビがその古い皮から「這い」出てくる。古い皮は口の付近で破れ、ヘビは粗い表面に対して擦り付けるようにしてうねり出てくる。多くの場合、脱け殻は古い靴下のように一連なりで、頭から尾まで全身が後方に剥落する。新たに、より大きく明るい皮膚層が下部に形成されていく<ref name="RSSlimy"/><ref name = "GenSnakeInfo">[https://ift.tt/2sWwEeo General Snake Information]. Division of Wildlife, South Dakota</ref>。

老齢のヘビは年に1回ないし2回しか脱皮しないであろうが、若齢で成長途上のヘビは年に最大4回まで脱皮する場合がある<ref name = "GenSnakeInfo"/>。捨てられた皮には鱗パターンの完全な印影があるので、この抜け殻がほぼ完全で無傷なら、通常はそれでヘビを識別することが可能である<ref name="RSSlimy"/>。

==鱗の配列==
[[Image:AB045 Scales on a snakes head.jpg|thumb|250px|right|頭部にある鱗の命名(頭頂部の写真)]]
鱗の配列は、分類学的な有用性のみならず、法医学的な理由やヘビ種の保全のためにも重要である<ref></ref>。頭部を除き、ヘビは屋根瓦のように重なり合う瓦状の鱗を有する<ref name="Smith3_5">Smith, Vol III, p. 5</ref>。ヘビには全身または体躯の一部に沿って鱗列があり、頭部や身体の他の場所に発生する他の特殊な鱗の多くは、単一ないし左右一対である。

ヘビの体躯にある体鱗(body scale,dorsal scale)は、その胴回りに沿って列を作る。隣り合う体鱗列は互いに斜め方向へと列をなす<ref name=kato>[[加藤英明]]「[http://shizuokakameken.seesaa.net/article/453707234.html 鱗の数でヘビの種類を見分けよう!体鱗列数]」、加藤英明の「静岡ぐるっと生き物探検!」、2020年1月25日閲覧。</ref>。 大半のヘビは奇数の体鱗列であるが、例えば[[カサントウ属]]などの特定種は偶数の列を持っている<ref name="Greene_pg22"/>。一部の水生ヘビや海生ヘビの場合、鱗が粒状で列を数えることができない<ref name="Smith3_5"/>。

体鱗列の範囲は[[フミキリヘビ]]の10から、[[ナミヘビ科#分類| キノボリアトバ属、スベハダヘビ属 、ヒメヘビ属]]そして[[ワモンベニヘビ]]で13。日本に生息する[[アカマタ]]で17、[[アオダイショウ]]では23や25<ref name=kato />。数が大きなものだと[[ニシキヘビ属]]で65から75、[[オオアタマウミヘビ属]]で74から93、[[ヤスリヘビ属]]で130から150。ヘビの大部分を占める最も多い[[ナミヘビ科]]は15、17、19の鱗列を持つ<ref name="Greene_pg22"/><ref name="Smith3_7">Smith, Vol III, p. 7</ref>。列の最大数は胴体中央にあり、頭と尾に向かうほど数が減る。

==鱗の名称==
[[Image:AB044 Scales on a snakes head.jpg|thumb|500px|right|鱗の命名(頭部を横から見たもの)]]
ヘビの頭部および体躯にある様々な鱗は、南アジアの一般的な草むらに生息するナミヘビ科(ヘビで最大規模の科)の[[キスジヒバァ]]の英語名付き写真とともに以下の節で示す。

===頭部の鱗===
[[Image:AB047 Scales on a snakes head.jpg|thumb|250px|right|鱗の命名(頭部を下から見たもの)]]
頭部にある鱗の識別は、ヘビで識別しやすい鼻孔を参照して始めると最も分かりやすい。鼻板(nasals)と呼ばれる鼻孔を囲む2つの鱗がある。 ナミヘビ科では両鼻板の間に鼻孔があるが、[[クサリヘビ科]]では単一の鼻板中央に鼻孔がある<ref name="Salvador">[https://ift.tt/37tBsXO Identifying snakes by scalation and other details]. Wildsideholidays</ref>。鼻面の近くにある鼻板外側は前鼻板(prenasal)と呼ばれ、目の近くにある鼻板内側は後鼻板(postnasal)と呼ばれる。 頭の両側で鼻板をつなぐ鼻の頂部に沿って、鼻間板(internasals)と呼ばれる鱗がある。2つの前鼻板の間にある鼻の頂部には吻端板(rostral)と呼ばれる鱗がある<ref name="Salvador"/>。

眼窩(circumorbitalやocular)の鱗に関して、日本では定着した命名がされていない。この鱗は眼球をカバーする透明な鱗で、英語圏ではスペクタクル(spectacle)、ブリル(brille)、アイキャップ(eyecap)などと呼ばれる<ref name="RSSlimy"/><ref name = "Evolution">[https://ift.tt/36n4tD6 Evolution of snakes]. Arachnophiliac.co.uk (2007-02-12). Retrieved on 2013-01-21.</ref>。鼻または前部に向かう眼窩周囲の鱗は眼前板(preocular)と呼ばれ、後部に向かうものは眼後板(postocular)、上側ないし背側に向かうものは眼上板(supraocular)と呼ばれる<ref name=Osaka>柴田保彦ほか「[http://www.mus-nh.city.osaka.jp/publication/bulletin/bulletin/42/42-003.pdf 男女群島から発見されたシロマダラ]」大阪市立自然史博物館、42巻、1987年3月、27-28頁。</ref>。腹側ないし下側に向かう周囲板は、もしある場合は眼下板(subocular)と呼ばれる。眼前板と後鼻板の間には、頬板(loreal)<ref name=Osaka />と呼ばれる単一ないし2つの鱗がある<ref name="Salvador"/>。[[コブラ科]]には頬板がない。

ヘビの唇沿いにある鱗は唇板(labials)と呼ばれる。上唇にあるものは上唇板(supralabialsやupper labials)、下唇にあるものは下唇板(infralabialsやlower labials)と呼ばれる<ref name=Osaka />。頭頂部と目の間にあって、眼上板に隣接するのが額板(frontal)である<ref name=Osaka />。前額板(prefrontal)とは鼻の先端に向かって前頭板と繋がり、鼻孔間板と接触している鱗である。それらの間に鱗がある場合もある<ref name="Salvador"/>。 頭頂部の後部には頭頂板(parietal)と呼ばれる前頭板と繋がった鱗がある。 後頭部の側面で頭頂板と上唇板の間にあるものは側頭板(temporal)と呼ばれる鱗である<ref name="Salvador"/>。

頭部の下側を見ると、ヘビにはオトガイ板(mental)と呼ばれる前方端の鱗がある<ref name=Osaka />。この鱗と繋がって下唇に沿ったものが下唇板<!--infralabialsとlower labialsは既出なので割愛-->である。顎に沿って下唇板と繋がった一対の鱗は前咽頭板(anterior chin shields)と呼ばれ、顎に沿ってさらに後方には後咽頭板(posterior chin shields)がある<ref name=Osaka />。

中央部または喉部の鱗で、ヘビの胴体の第一腹板と繋がりかつ咽頭板と隣接するものは喉板(gular)と呼ばれる。オトガイ溝(mental groove)は頭部の下面にある縦方向の溝で、大きな左右一対の咽頭板の狭間から小さな喉板の狭間まで続いている。

[[Image:AB 053 Banded Krait.JPG|thumb|200px|right|黄色と黒の帯模様がある[[マルオアマガサ]]の胴体の一部。胴体は断面が三角形で、脊椎の畝の頂点には特徴的な鱗がある。]]
===胴部の鱗===
ヘビの胴部にある鱗は、背骨側が体鱗で肋骨側が腹板と呼ばれる<!-- 英語のdorsal(背板) と costal (肋板)は日本だと滅多使われないため、国内での通称用語にして意訳-->。たまに、ヘビの背の頂部に沿って特別な列をなす大きな鱗があり、これは脊椎板(vertebral)と呼ばれる頂上の列である(右の写真参照)。

ヘビの腹側で肥大した鱗は腹板(ventralやgastrosteges)と呼ばれる。腹板の数は種を識別しうるものである<ref name="Salvador"/>。「進化後の」ヘビ([[ヘビ#ナミヘビ上科_Caenophidia|ナミヘビ上科]])では、幅広の腹板と背側の体鱗列が脊椎に対応しており、解剖せずとも科学者は脊椎を数えることができる。

===尾部の鱗===
[[Image:AB048 Scales on a snakes body.jpg|thumb|250px|right|鱗の命名(胴体を下から見たもの)]]
ヘビの腹板の終点で、尾部付近の下側には総排出腔(排泄口と生殖口を兼ねる器官)の開口部を保護する肛板(anal)がある。この肛板は単一だったり2つに分かれている場合もある。肛板の後ろにある体躯部分が尾部とみなされる<ref name = "RepSnakeFacts"/>。

種によって、ヘビは尾部下側に1列ないし2列の肥大した鱗を持っており、これらは尾下板(subcaudalsやurosteges)と呼ばれる<ref>星野 一三雄「[https://allabout.co.jp/gm/gc/70173/ #6.ヘビの尻尾]」、All About、2006年12月03日</ref><ref name="Salvador"/>。これらの尾下板は滑らかだったり、[[パフアダー]]のように線状突起(キール)がある場合もある。尾の終端は先端に向かって単純に先細りになっている(大部分のヘビの場合)か、脊椎を形成する([[コブラ科#ウミヘビ亜科(広義)|デスアダー属]]など)か、終端が骨棘になっている([[ブッシュマスター|ブッシュマスター属]]など)または終端がラトル(ガラガラヘビ属など)の場合もある。また海生のヘビの多くで舵の役割を果たすものが確認されている。

===鱗の名称一覧===
[[Image:ColuberScales.png|thumb|right|250px|マルコム・A・スミス(1943)による[[ナミヘビ科#分類|ムチヘビ属]]の頭部図を借りて説明したもの。
----

'''ag'''-前咽頭板<br />
'''f''' -額板<br />
'''in''' -鼻間板<br />
'''l''' -頬板<br />
'''la''' -上唇板<br />
'''la''''-下唇板<br />
'''m''' -頤板<br />
'''n''' -鼻板<br />
'''p''' -頭頂板<br />
'''pf''' -前額板<br />
'''pg''' -後咽頭板<br />
'''pro''' -眼前板<br />
'''pso''' -眼前下板<br />
'''pto''' -眼後板<br />
'''r''' -吻端板<br />
'''so''' -眼上板<br />
'''t''' -側頭板<br />
'''v''' -第一腹板<br />

----]]

* '''頭部の鱗'''
** 吻端板
** 鼻吻板
** 鼻板
*** 前鼻板(Prenasal)
*** 後鼻板(Postnasal)
*** 上鼻板(Supranasal)
*** 前頭鼻板(Fronto-nasal)
** 鼻間板
** ブリル
** 眼窩の鱗
*** 眼前板(preocular)
*** 眼後板(postocular)
*** 眼上板(supraocular)
*** 眼下板(subocular)
** 頬板(loreal)
** 眼間板
** 額板
** 前額板
** 頭頂板
** 後頭板
*** 後頭間板(Interoccipital)
** 側頭板
** 唇板
*** 上唇板(supralabial)
*** 下唇板(subralabial)
** 頤(オトガイ)板
** 咽頭板
*** 前咽頭板(anterior chin shields)
*** 後咽頭板(posterior chin shields)
*** 咽頭間板(Intergeneial)
** 喉板
* '''胴部の鱗'''
** 体鱗
** 椎板
** 腹板
* '''尾部の鱗'''
** 肛板
** 尾下板
<!--眼上板と吻端板との間の角度を示すCanthus(又はCanthus rostralis)の日本語名称が不明。やむなく関連用語(Other pertinent terms)は小節ごと割愛。-->

==分類学的重要性==
鱗は、[[科 (分類学)]]を識別する上では重要な役割を果たさないが、[[属 (分類学)]]および[[種 (分類学)]]のレベルでは重要となる。<!-- 鱗の命名法には克明な手法がある。-->鱗のパターンは、鱗の表面ないし手触り、模様と色彩、肛板の分割、その他形態学的な特徴とを組み合わせることで、ヘビを種レベルまで分類するための主な手段である<ref name="Kentucky1"/>。

ヘビの多様性がさほど多くない北米の特定地域では、毒ヘビと毒を持たないヘビを一般人が区別するための、単純な鱗の識別に基づく簡単な秘訣が考案されている<ref name="Damage">[https://ift.tt/36uZksC North Carolina State Wildlife Damage Notes - Snakes] Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2). Ces.ncsu.edu. Retrieved on 2013-01-21.</ref><ref name="PennState">[https://ift.tt/37qSAgI Pennsylvania State University - Wildlife Damage Control 15 (pdf)]. (PDF) . Retrieved on 2013-01-21.</ref>。ミャンマーなど生物多様性の大きな場所では、慎重な調査もせずに毒ヘビと毒を持たないヘビを簡単に識別することはできないと複数出版物が警告している<ref name="MyanmarList"></ref>。

鱗のパターンは実地調査における個体識別にも使用される場合がある。個々のヘビに印をつけるべく、尾下板など特定の鱗を切り取ってしまうクリッピングは、印付けと再捕獲技法によって生息数を推定するための一般的な手法である<ref>Resources Inventory Branch, Ministry of Environment, Lands and Parks Resources Inventory Branch for the Terrestrial Ecosystems Task Force Resources Inventory Committee . (1998). [https://ift.tt/38B7gtK ''Inventory Methods for Snakes Standards for Components of British Columbia's Biodiversity No. 38''].</ref>。

===毒ヘビと毒を持たないヘビの識別===
[[Image:AB 062 Banded Krait.JPG|thumb|right|300px|コブラ科の[[マルオアマガサ]]には、鼻板と眼前板の間にあるべき頬板がない]]

鱗の特徴を用いるだけで、毒ヘビと毒を持たないヘビを識別する単純な方法はない。ヘビが有毒か否かを調べるには、専門家の助けを借りてヘビの種を特定するのが正確だが<ref name="Thorpe et al">Thorpe, Roger S.; Thorpe, R. S.;Wüster, Wolfgang & Malhotra, Anita (1997). [https://ift.tt/2Rsv11G& ''Venomous snakes: ecology, evolution, and snakebite'']. Vol. 70 of Symposia of the Zoological Society of London. Oxford University Press, London. .</ref>、専門家がいない場合は、ヘビを子細に調べて特定の地理地域にいるヘビについての信頼できる参考文献と照らし合わせて種を特定する。鱗のパターンは種を特定するのに有用であり、ヘビの種が有毒か否かが知られていれば参考文献から確認できる。

鱗を用いた種の識別には、ヘビやその分類や鱗名称に関する相当な知識のほか、科学文献への見聞にも精通していることが求められる。未捕獲な験体の場合、実地でヘビが有毒か否かを鱗図表を使って識別することはできない。ヘビを捕まえて鱗図表を使って有毒か否かを確認することは推奨できない<ref name = "Thorpe et al"/>。大半の書籍やウェブサイトでは、実地でヘビが有毒か否かを識別するのに有用な鱗図表ではなくて、その地に生息する爬虫類両生類の特徴を羅列している<ref name="Kentucky1">[https://ift.tt/2TXpPVd How To Identify Snakes]. kentuckysnakes.org.</ref><ref>Berger, Cynthia. (2007). ''Venomous Snakes''. Stackpole books. .</ref>。

一部の地域では、特定の鱗の有無によって毒ヘビと毒を持たないヘビを素早く識別する方法もあったりするが、注意と例外の知識を持って使用する。例えばミャンマーでは、頬板の有無が比較的無害なナミヘビ科と致命的な毒を持つコブラ科を識別するのに使用されている<ref name="MyanmarList"/>。この地域限定ルールでは、鼻板と眼前板の間に頬板がないものはヘビが致命的な毒を持つコブラ科だということを表している<ref name="MyanmarList"/>。この経験則は頭に小さな鱗が多数あるクサリヘビ科の毒ヘビ(日本に生息する[[マムシ]]や[[ハブ (動物)|ハブ]]など)には適用できないので、その点を頭に入れずに使ってはならない。ナミヘビ科で有毒が知られている[[ヤマカガシ]]などの種を見抜くのにも、慎重なチェックが求められる<ref name="MyanmarList"/>。

南アジアでは、鱗図表を使用して医療従事者が識別できるよう、人間に噛みついたヘビを、それが死んでいる場合でも病院に運ぶことが推奨されており、それによってどの[[抗毒素|抗毒]][[抗血清|血清]]を投与するべきか否かを情報に基づいて判断することが可能になる。ただし、ヘビは多くの人を噛む可能性があるため、それを捕まえたり毒ヘビを殺そうとすることは推奨されていない<ref name="Memo102">Directorate General Armed Forces Medical Services, India. Memorandum No 102 : Snakebite. Undated.pdf available [ online]. Accessed on 21 Feb 2010.</ref>。

==文化的意義==

[[Image:SnakeskinBoots1 gobeirne.jpg|thumb|蛇革のブーツ]]
ヘビは人類の文化と宗教におけるモチーフであり、世界じゅうで畏怖と魅惑の対象となっている。[[ガボンアダー]]などのヘビの鱗に見られる鮮明な模様は、嫌悪感を催したりもするし人の心を魅了したりもする。先史以来、そうした模様は人間に畏敬の念を呼び起こしており、それらは各時代での芸術一般において見ることができる。恐怖画像と心理的興奮の研究では、ヘビの鱗がヘビ画像の肝心な要素であることが示されている。ヘビの鱗はまた、ヘビの鱗パターンとよく似ている市松モザイク模様の形で[[イスラム美術]]に影響を及ぼしているとも考えられている<ref name = "Aesthetics_108_116"/>。

蛇革は、実に周期的なその網目模様ないし格子模様で人々の審美眼に訴えかけ、おしゃれなアクセサリーを含め多くの革製品の製造に用いられている<ref name = "Aesthetics_108_116">Voland, Eckart and Grammer, Karl (2003) ''Evolutionary Aesthetics'', Springer, pp. 108-116 .</ref>。しかし、蛇革の使用はヘビの個体数を危機的状況にしており<ref name="ESHBook">[https://ift.tt/311DNa4 The Endangered Species Handbook - ''Trade'' (chapter) ''Reptile Trade - Snakes and Lizards'' (section)] Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2) - accessed on 15 August 2006</ref>、ヘビの特定種と個体群の取引については[[ワシントン条約]]の形で国際的な規制がかかる結果となった<ref name = "CITES">[https://ift.tt/2TXpQbJ Species in Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES)] - accessed on 14 August 2006</ref>。多くの国の動物愛好家は代わりに人工的な蛇革の使用を現在促進しており、これはエンボス加工された皮革、模様入りの布地、プラスチック、その他の素材から容易に製造できる<ref name = "Aesthetics_108_116"/>。

ヘビの鱗は<!-- アクション系の-->コンピューターゲーム内で定期的にモチーフとして出現している<ref name = "Motif_1">[https://ift.tt/2t39Yta Gabriel Knight - Sins of the Father]. Gameboomers.com. Retrieved on 2013-01-21.</ref><ref name = "Motif_2">[https://ift.tt/38BQRWb Snake Rattle 'n Roll]. consoleclassix.com. Retrieved on 2013-01-21.</ref><ref name = "Motif_3">[https://ift.tt/36tprjR Allahkazam's Magical Realm]. Everquest.allakhazam.com. Retrieved on 2013-01-21.</ref><ref name = "Motif_4">[https://ift.tt/2GqcDQu Monsters/Pets : Reptile]. Legend of Mana. qrayg.com</ref>。1982年の映画『[[ブレードランナー]]』では、ヘビの鱗が謎解きの手がかりとして描かれた<ref name = "Blade runner">[https://ift.tt/2NXFik6 Encyclopaedia]. Brmovie.com. Retrieved on 2013-01-21.</ref>。ヘビの鱗はまた、[[ハリー・ポッターシリーズ]](ポリジュース薬を調合するための材料として[[ブームスラング]]の乾燥した皮が使用される)などの人気小説やティーン向け小説にも登場する<ref name = "Motif_5">Quynh-Nhu, Daphne (April 2006). [https://ift.tt/37tBu1S Jade Green and Jade White]. teenink.com. Retrieved on 2013-01-21.</ref>。

==関連項目==

* [[ヘビ]]
* [[鱗]]
* [[ケラチン]]
* [[脱皮]]

== 脚注 ==
=== 注釈===

=== 出典===


==参考資料==
* (1943) ''The Fauna of British India, Ceylon and Burma including the whole of the Indo-Chinese Sub-region'', Reptilia and Amphibia. Vol I - Loricata and Testudines, Vol II-Sauria, Vol III-Serpentes. Taylor and Francis, London.鱗名称の説明図にて使用。

==外部リンク==

* [https://ift.tt/2tQt6Le ''Are snakes slimy'' - Singapore Zoological Garden's Docent site]
* [https://ift.tt/30YCkkD Microscopic structure of smooth and keeled scales in snakes]
* [https://ift.tt/36rxMV1 General Snake Information - Division of Wildlife, South Dakota]
* [https://ift.tt/2RNsnlW Reptiles - Snake facts. Columbus Zoo & Aquarium.]
* [https://ift.tt/38JyY7F North Carolina State Wildlife Damage Notes - Snakes]
* [https://ift.tt/37qSAgI Pennsylvania State University - Wildlife Damage Control 15 (pdf)]
* [https://ift.tt/2RPnWab ZooPax Scales Part 3]
* [https://ift.tt/2TXpQbJ Species in Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora (CITES)] -2006年8月14日閲覧。
* [https://ift.tt/3aFkNT4 The Endangered Species Handbook - ''Trade'' (chapter) ''Reptile Trade - Snakes and Lizards'' (section)] -2006年8月15日閲覧。



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