2019年10月20日日曜日

意味調べるBiP (タンパク質)

新規更新October 20, 2019 at 01:20AM
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BiP (タンパク質)


Smilesworth: :en:Binding immunoglobulin protein (14:13, 23 August 2019 UTC) を翻訳



'''BiP'''(Binding immunoglobulin protein)は、ヒトでは ''HSPA5''[[遺伝子]]によってコードされる[[タンパク質]]である。GRP-78、HSPA5(heat shock 70 kDa protein 5)、Byun1としても知られる<ref name="pmid2840249">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="pmid80209772">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

BiPは、[[小胞体]]の内腔に位置するファミリーの[[分子シャペロン]]である。小胞体へ移行してきた新生タンパク質に結合し、それらをその後の[[フォールディング|フォールティング]]や[[オリゴマー|オリゴマー化]]が可能な状態に維持する。また、BiPは小胞体の移行装置の必須の構成要素でもあり、異常タンパク質の[[プロテアソーム]]分解へ向けた小胞体への逆行性輸送に役割を果たす。BiPはすべての生育条件で豊富にみられるタンパク質であるが、フォールディングしていない[[ポリペプチド]]が小胞体に蓄積する条件下では合成が顕著に誘導される。

== 構造 ==

BiPは、ヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と基質結合ドメイン(SBD)という2つの機能的ドメインを含んでいる。NBDは[[アデノシン三リン酸|ATP]]を結合して[[加水分解]]し、SBDはポリペプチドを結合する<ref name="Yang_2015">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

NBDは2つの大きな球状サブドメイン(I、II)から構成され、さらにそのそれぞれが2つの小さなサブドメイン(A、B)へと分割される。サブドメイン間には溝があり、そこへ[[ヌクレオチド]]、1つの[[マグネシウム|Mg<sup>2+</sup>]]イオン、2つの[[カリウム|K<sup>+</sup>]]イオンが結合して4つのドメイン(IA、IB、IIA、IIB)すべてが連結される<ref name=":0">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="Mayer_2005">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":1">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。SBDは、SBDβとSBDαという2つのサブドメインへと分割される。SBDβは基質タンパク質またはペプチドの結合ポケットとして機能し、SBDαは結合ポケットを覆うαヘリックスからなる蓋として機能する<ref name=":2">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":3">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":4">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。ドメイン間リンカーはNBDとSBDを連結し、NBD-SBD相互作用面の形成を促進する<ref name="Yang_2015" />。

== 機構 ==
BiPの活性は、[[アロステリック効果|アロステリック]]な[[ATPアーゼ]]サイクルによって調節されている。ATPがNBDに結合するとSBDαの蓋が開き、SBDは基質との親和性が低いコンフォメーションとなる。ATPの加水分解に伴ってADPがNBDに結合し、蓋が結合した基質の上に閉じる。これによって基質は解離速度が低下し高い親和性での結合を行い、基質の尚早なフォールディングや凝集が防がれる。ADPがATPへの交換されるとSBDαの蓋が開いて基質が放出され、基質は自由にフォールディングを行うようになる<ref name=":5">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="pmid8310296"></ref><ref name=":6">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。ATPアーゼサイクルは、<ref name="pmid10893409">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>や<ref name="Behnke_2015">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>によって相乗的に加速される。

== 機能 ==

細胞が[[グルコース]]飢餓にさらされると、(glucose-regulated protein、GRP)と呼ばれるいくつかのタンパク質の合成が顕著に上昇する。GRP78(HSPA5)はBiPとも呼ばれ、Hsp70ファミリーのメンバーであり小胞体でのタンパク質のフォールディングや組み立てに関与する<ref name="pmid80209772"/>。BiPのレベルは、小胞体内の分泌タンパク質([[免疫グロブリンG|IgG]]など)の量と強く相関している<ref name="pmid225109602">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

BiPによる基質の解離と結合は、新生タンパク質のフォールディングや組み立て、誤ってフォールディングしたタンパク質のの防止、分泌タンパク質の移行、[[小胞体ストレス|小胞体ストレス応答]](unfolded protein response、UPR)の開始など、小胞体での多様な機能を促進する。

=== タンパク質のフォールディングと保持 ===

BiPは能動的に基質をフォールディングする()、または単に結合して基質がフォールディングや凝集するのを防ぐ()。フォールダーゼとして機能するには、完全なATPアーゼ活性とペプチド結合活性が必要である。ATPアーゼ活性に欠陥のある(クラスI変異と呼ばれる)とペプチド結合活性に欠陥のある変異体(クラスII変異と呼ばれる)は、どちらも非許容温度下ではカルボキシペプチダーゼY(CPY)を正しくフォールディングすることができない<ref name=":7">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 小胞体への移行 ===

BiPは小胞体の分子シャペロンとして機能し、小胞体内腔や小胞体膜へのATP依存的なポリペプチドの取り込みに必要である。ATPアーゼ活性変異体は、多数のタンパク質([[インベルターゼ]]、カルボキシペプチダーゼY、α-接合因子)の小胞体内腔への移行の妨げとなることが判明している<ref name=":8">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":9">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":10">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 小胞体関連分解 ===

BiPは(ERAD)にも役割を果たす。最もよく研究されているERADの基質は、常に誤ったフォールディングを行い、完全に小胞体へ移行し[[グリコシル化]]修飾を受けるCPY(CPY*)である。BiPはCPY*と接触する最初のシャペロンで、CPY*の分解に必要とされる<ref name=":11">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。BiPのATPアーゼ活性変異([[アロステリック効果|アロステリック]]変異も含む)によって、CPY*の分解速度が大きく低下することが示されている<ref name=":12">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":13">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 小胞体ストレス応答経路 ===

BiPはUPRの標的であるとともに、UPR経路に必須の調節因子でもある<ref name=":14">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":15">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。小胞体ストレス下では、BiPは3つのシグナル伝達因子(、、)から解離し、効率的にそれぞれのUPR経路を活性化する<ref name=":16">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。BiPはUPRの標的遺伝子の産物であり、UPR[[転写因子]]がBiPの遺伝子DNAの[[プロモーター]]領域のUPRエレメントに結合することでアップレギュレーションされる<ref name=":17">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

== 相互作用 ==

BiPのATPaseサイクルは、ADPの解離の際にATPの結合を促進すると、ATPの加水分解を促進するの双方のコシャペロンによって促進される<ref name="Behnke_2015" />。

== BiPのシステインの保存性 ==

BiPは[[真核生物]]の間で高度に保存されていおり、それには[[哺乳類]]も含まれる(表1)。また、ヒトではBiPはすべての組織で広く発現している<ref name="Brocchieri_2008">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。ヒトのBiPには2つの高度に保存された[[システイン]]残基が存在する。これらのシステイン残基は[[酵母]]と哺乳類細胞の双方で[[翻訳後修飾]]を受けることが示されている<ref name="Wang_2014">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="Wang_2016">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":18">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。酵母細胞では、[[N末端]]側のメチオニンは酸化ストレスによって[[スルフェン酸|スルフェニル化]]と[[グルタチオン|グルタチオン化]]されることが示されている。どちらの修飾も、BiPのタンパク質凝集を防ぐ能力を向上させる<ref name="Wang_2014" /><ref name="Wang_2016" />。マウスの細胞では、保存されたシステインのペアは(NPGPx)の活性化に伴って[[ジスルフィド結合]]を形成する。ジスルフィド結合はBiPの変性タンパク質への結合を向上させる<ref name=":19">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

{| class="wikitable" style="text-align: center;"
| colspan="6" |'''表1.哺乳類細胞におけるBiPの保存性Table 1. Conservation of BiP in mammalian cells'''
|-
|
|'''一般名'''
|'''学名'''
|'''BiPの保存性'''
|'''BiPのシステインの保存性'''
|'''システイン数'''
|-
| rowspan="4" |霊長類
|ヒト
|''Homo sapiens''
|Yes
|Yes
|2
|-
|ニホンザル
|''Macaca fuscata''
|Yes
|Yes
|2
|-
|ミドリザル
|''Chlorocebus sabaeus''
|Predicted*
|Yes
|2
|-
|マーモセット
|''Callithrix jacchus''
|Yes
|Yes
|2
|-
| rowspan="6" |齧歯類
|マウス
|''Mus musculus''
|Yes
|Yes
|2
|-
|ラット
|''Rattus norvegicus''
|Yes
|Yes
|3
|-
|モルモット
|''Cavia porcellus''
|Predicted
|Yes
|3
|-
|ハダカデバネズミ
|''Heterocephalus glaber''
|Yes
|Yes
|3
|-
|ウサギ
|''Oryctolagus cuniculus''
|Predicted
|Yes
|2
|-
|ツパイ
|''Tupaia chinensis''
|Yes
|Yes
|2
|-
| rowspan="3" |有蹄類
|ウシ
|''Bos taurus''
|Yes
|Yes
|2
|-
|ミンククジラ
|''Balaenoptera acutorostrata scammoni''
|Yes
|Yes
|2
|-
|ブタ
|''Sus scrofa''
|Predicted
|Yes
|2
|-
| rowspan="3" |食肉類
|イヌ
|''Canis familiaris''
|Predicted
|Yes
|2
|-
|ネコ
|''Felis silvestris''
|Yes
|Yes
|3
|-
|フェレット
|''Mustela putorius furo''
|Predicted
|Yes
|2
|-
| rowspan="2" |有袋類
|オポッサム
|''Monodelphis domestica''
|Predicted
|Yes
|2
|-
|タスマニアデビル
|''Sarcophilus harrisii''
|Predicted
|Yes
|2
|-
| colspan="6" style="text-align: left;" | *Predicted: NCBI Proteinによる配列予測
|}

== 臨床的重要性 ==

=== 自己免疫疾患 ===

ストレスタンパク質や熱ショックタンパク質の多くと同様、BiPは細胞内部環境から細胞外空間へ放出された際に強力な免疫学的活性を有している<ref name="pmid15245751">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。特に、BiPは免疫ネットワークへ抗[[炎症]]シグナルと解除促進シグナルを送り、炎症の解消を助ける<ref name="pmid21671907">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。BiPの免疫活性における機構は完全には理解されていない。しかしながら、[[単球]]表面の受容体に結合して抗炎症[[サイトカイン]]の分泌を誘導し、[[T細胞]]の活性化に関わる重要な分子をダウンレギュレーションするとともに、単球の[[樹状細胞]]への分化経路を調節することが示されている<ref name="pmid15077298">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="pmid19740378">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

BiP/GRP78の強力な免疫調節活性は、ヒトの[[関節リウマチ]]に似たマウス疾患であるなどの[[自己免疫疾患]]の動物モデルで示されている<ref name="pmid11160188">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。BiPの予防的・治療的な非経口デリバリーは、炎症性関節炎の臨床的・組織学的徴候を緩和することが示されている<ref name="pmid16508967">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 心血管疾患 ===

BiPのアップレギュレーションは、小胞体ストレスによって誘導される心機能不全や[[拡張型心筋症]]と関係している<ref name=":20">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":21">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。またBiPは、[[ホモシステイン]]誘導性の小胞体ストレスの緩和、[[血管内皮|血管内皮細胞]]の[[アポトーシス]]の防止、[[コレステロール]]/[[トリグリセリド]]の生合成を担う遺伝子の活性化の阻害、そして[[組織因子]]の凝血促進活性の抑制によって、[[アテローム性動脈硬化症|アテローム性動脈硬化]]の発症を抑えると提唱されている。これらはすべてアテローム斑の蓄積に寄与する過程である<ref name="pmid17481612">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

[[プロテアソーム]]阻害剤など一部の[[抗がん剤]]は、心不全の合併症と関係している。新生ラットの心筋細胞では、BiPの過剰発現はプロテアソームの阻害によって誘導される心筋細胞の細胞死を減少させる<ref name=":22">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 神経変性疾患 ===

BiPは小胞体のシャペロンタンパク質であり、誤ってフォールディングしたタンパク質を修正することで小胞体ストレスによる[[神経細胞]]の細胞死を防止する<ref name=":23">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name=":24">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。さらに、BIXと名付けられたBiPを誘導する化学物質は脳[[虚血]]モデルマウスで[[脳梗塞]]を減少させる<ref name="pmid18049481">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref><ref name="pmid25546329">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。逆に、BiPのシャペロン機能の向上は[[アルツハイマー病]]と強く関係している<ref name=pmid17481612/><ref name="pmid25546329" />。

=== 代謝性疾患 ===

BiPの[[ヘテロ接合型|ヘテロ接合性]]は、小胞体ストレス経路をアップレギュレーションし、高脂肪食による[[肥満]]、[[2型糖尿病]]、[[膵炎]]から保護すると提唱されている。また、BiPは[[脂肪組織]]におけると[[グルコース]]の恒常性に必要である<ref name=":25">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

=== 感染症 ===

[[原核生物]]のBiPの[[オルソログ]]は、[[細菌]]の[[DNA複製]]に必須な[[RecA]]などのタンパク質と相互作用することが判明している。したがって、これらの細菌のHsp70型シャペロンは[[抗生物質]]開発の有望な標的となる。特にBiPを抑制する抗がん剤OSU-03012によって、[[淋菌]]''Neisseria gonorrhoeae''のスーパー耐性菌(superbug)株はいくつかの標準的治療で用いられる抗生物質に対し再感受性となる<ref name=pmid25546329/>。一方[[腸管出血性大腸菌|志賀毒素産生性大腸菌]]の病原性株は、宿主のBiPを阻害するためにを産生し、宿主細胞の生存を弱体化させる<ref name=pmid17481612/>。対照的に[[ウイルス]]は、細胞表面のBiPを介して細胞に感染し、ウイルスタンパク質へのシャペロン活性のためにBiPの発現を促進し、小胞体ストレスによる細胞死応答を抑制するなど、複製の大部分を宿主のBiPに依存している<ref name=pmid25546329/><ref name=":26">Liquid error: wrong number of arguments (given 1, expected 2)</ref>。

== 出典 ==


== 外部リンク ==
*
*
* [https://ift.tt/2W1VzHB PDBe-KB] - [[蛋白質構造データバンク|PDB]]で利用可能なヒトのBiPの全ての構造


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